国鉄の通勤型車両以外で、初の禁煙車を実現させたクリスチャン医師
宇佐神(うさみ)正海医学博士

 かつて通勤形車両以外の列車、特急や急行列車には、どの席にも灰皿が設置され、全車両で喫煙が可能であった。それが、1980年代に日本でも禁煙車設置が進むようになり、今では新幹線や寝台列車を除き全列車禁煙となっている。当時の国鉄に働きかけ、初めて特急に禁煙車両を連結させたのは、一人のクリスチャン医師であった。
 茨城県でクリニックを開業している宇佐神(うさみ)正海医学博士は受動喫煙の危険性を主張してこられた。喫煙は、ガンだけでなく、脳卒中、心筋梗塞など多くの疾病の原因であり、薬の効果を失わせる。そして、タバコの煙は、吸っている人が吸い込む煙よりも、タバコから出る紫煙の方が、はるかに毒性が強い。タバコは他人を恐ろしい病気で苦しませる結果を生み、人を殺す凶器とさえなりうるのだ。そこで宇佐神先生は、何とか公共の場所からタバコの煙をなくしたいと、手始めに鉄道に的を絞った。車内のタバコの煙は、乗り物酔い他さまざまな病気の原因となっていたからである。特急にも禁煙車を設けるべきだと、先生は、東京丸の内にあった国鉄本社(現在のJRの前身)に行き、旅客課長に話したところ、「喫煙者は既得権としてどこででもタバコを吸う権利を持っています。これを変えさせるためには、大衆運動にするしかありません。そのためには、多くの人の署名を集める事です」と示唆された。そこで先生は、茨城甦声会(喉頭ガンで声帯を摘出した人のリハビリと励ましの組織。喉頭=食物の気管や肺への流入の防止、発声などの機能を持つ。のど仏)の会員と共に禁煙車輌を設ける活動を開始する。
 ちょうどその頃、先生のクリニックに、水戸鉄道管理局の庶務課長が入院した。先生は、ガンで喉頭を失った人にとって、タバコの煙の充満する列車に乗るのがどれほどつらいかを説明した。そして陳情書を出したい旨を尋ねると、快くその方法を教えてくれたという。その指示に従って、1981年、水戸鉄道管理局長宛に『列車に禁煙車の設定方陳情書』を提出、翌1982(昭和57)年11月の国鉄時刻表改定の折、常磐線「ひたち号」に新幹線以外で初の禁煙車が最後尾に連結された。今では、殆どの車輌が禁煙となり、首都圏のJR全駅で喫煙所が取り除かれ、全面禁煙がスタート、全国の駅や公共施設などで禁煙の動きは広まっている。
 私たちの体は聖霊の宮である。酒に酔わず、聖霊で満たされ、よく祈り、使命を与えられてきた宇佐神先生は、医師として「受動喫煙」の危険性をいち早く指摘し、日本の鉄道の常識を変えた。その働きには、クリスチャン医師としての独自性と人格の尊さが備わっている。茨城県医師会長は、「この出来事が土台となって今日の列車内全面禁煙への流れが始まった事は実に茨城県にとっても誇りです」と言っている。

御翼2011年4月号その3より  
  
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